通訳の授業

 私が大学で教えているのは、「通訳法」「翻訳法」「通訳ゼミ」などの授業である。これらの授業では、パソコン教室やCALL教室を利用している。本来なら通訳設備のある教室が望ましいのだが、そうした設備がないので致し方ない。しかし、大学へ赴任する前にプロ通訳養成に携わっていたころは、なんとカセット機一台で20名程度の逐次通訳を指導していた。もちろん同時通訳の授業には、同通ブースや国際会議システムを教育用にカスタマイズした設備があった。生徒さんがみな社会人であったため、「静かに」とか、「宿題をやってきて」など何一つ注意する必要がなかった。しかし大学ではそういうわけにはいかない。40名からの学生をなんとか集中させなければならないのである。そこでパソコン教室が威力を発揮する。 
 最近ではほぼすべての大学にIT教室やマルティメディア教室などPCが一人1台与えられる環境が完備されているのではなかろうか。そうしたパソコン環境があればかなり良好な音質で集中的に通訳の授業ができるようになった。というより、一般教室でカセット機1台で大勢の大学生を集中させることなどもはや無理なのである。一人ひとりに学生用PCが与えられ、マイク付きのヘッドセットがないと、もはや大学での通訳教育は成り立たない。
 私は、あらかじめ、ウェブ上のパブリックドメインのサイトからDLしておいた音声を、ネットワークドライブ中のサーバーに入れておく。授業でこれらの音声を教室スピーカーから流したり、学生が各PCでこのサーバーにアクセスしてヘッドフォンから音声を聞いて、シャドーイング、ボイスオーバー、同時通訳を行う。音声をUSBで持ち帰って自宅でも学習させる。
 逐次では、オーディエンスに向かって訳すことに慣れさせるためにどうしても教室スピーカーから音声を流して、ノートを取って訳すという、「伝統的な」方法を取らざるを得ず、このプロセスで学生を集中させることが難しい。
 そんなことも手伝ってか、学生は同通の方が出来がいい。若いのでレスポンスが早い。デリバリーの質を問わなければ、アウトプットはかなり出せる。
 今日も、学生たちはあるアメリカのTV放送のニュースの同通にチャレンジし、録音したものを提出した。教材の配布や提出もさきほどのサーバーを介して行う。私は、回収した音声ファイルをUSBで持ち帰って聴き、評価するのである。今回のテーマは、「ES細胞の研究に連邦予算が組まれることになった」というもの。オバマ政権になってから、これ以外にも、科学技術への予算配分が増えているようだ。
 先日は、沖縄普天間基地移転問題も取り上げた。これは新聞記事のサイトラ。学生に現実社会で起きている出来事に少しでも目を向けさせることも大きな目的の一つである。
 通訳の授業というと、「観光地の案内」などと勘違いされる方がいまだにいる。そうした業務はガイドの仕事であって通訳の要素は入らない。通訳は「政治、経済、ビジネス、科学技術etc」などのテーマが中心である。学生には不慣れなテーマである。通訳がカバーする分野は、専門職としての英語(ESP)のあらゆる分野にわたる。国際交流や友好親善の話題は大学生向きであるが、オーセンティックな音声教材を得ることがなかなか難しい。市販教材は、ナレーションのような「読み言語」を音声化したものが多く、そうしたものは、話し言葉特有の冗長性がないため、逆に初心者には難しい面もある。大学生に適したオーセンティックな音声素材を探すのに常に苦労している。
 今回のブログは、いつもと違って写真もなく、本業の話題。
 

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 0

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック